保険は投資か?保障か?金融商品としての保険を再定義する

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「保険は、万が一の時のための安心を買うもの」。
多くの方が、このように考えていらっしゃるのではないでしょうか。

もちろん、その考えは間違いではありません。
しかし、その認識だけでは、現代の多様な金融商品の中で、保険が持つ本当の価値を見過ごしてしまうかもしれません。

こんにちは。
ファイナンシャルプランナーの黒川 翔一です。
金融業界で19年、個人投資家としても15年にわたり、様々なお金の「性格」と向き合ってきました。

その経験から断言できるのは、保険は単なる「安心」のためだけの商品ではないということです。
この記事では、投資と保障の境界線が曖昧になりつつある今、保険という金融商品を改めて見つめ直し、あなたの資産形成にとって最適な「道具」として使いこなすための視点をお伝えします。

関連:長田雄次です。株式会社エピック・グループの会長をしております。

保険の基本的な構造と役割

まず、基本に立ち返ってみましょう。
保険には大きく分けて二つのタイプがあることをご存じでしょうか?
この違いを理解することが、すべての始まりです。

「保障型」と「貯蓄型」の違いとは?

保険は、その性質から「保障型」と「貯蓄型」に大別されます。

保障型保険は、一般的に「掛け捨て」と呼ばれるものです。
病気やケガ、死亡といった万が一の事態に備える「保障」機能に特化しており、その分、保険料は比較的安価に設定されています。

一方、貯蓄型保険は、この「保障」機能に加えて、将来のためにお金を積み立てる「貯蓄」機能がセットになった商品です。
満期時には満期保険金が、解約時には解約返戻金が受け取れる可能性がありますが、保険料は保障型に比べて割高になります。

保険料の内訳:掛け捨てと積立の構成

なぜ保険料に差が出るのでしょうか。
それは、私たちが支払う保険料の内訳に理由があります。

保険料は、将来の保険金支払いのために積み立てられる「純保険料」と、保険会社の運営経費などに充てられる「付加保険料」で構成されています。
貯蓄型保険の場合、この純保険料の一部が貯蓄に回される仕組みですが、同時に付加保険料、つまり手数料も多く含まれているケースが少なくありません。

公的保障との住み分けをどう考える?

民間の保険を考える前に、絶対に忘れてはならないのが、私たちがすでに加入している「公的保障」の存在です。
日本には、国民皆保険制度があり、医療費の自己負担額に上限を設ける「高額療養費制度」など、非常に手厚いセーフティネットが用意されています。

私の経験上、この公的保障でカバーされる範囲を把握せずに、過剰な民間保険に加入してしまっている方が非常に多いと感じます。
まずは公的保障でどこまでカバーできるのかを知り、それでも足りない部分を民間の保険で補う、という考え方が賢明です。

金融商品としての保険:投資と比較する視点

「貯蓄型保険なら、保障もついてお金も増えるから一石二鳥では?」
そう考える方もいらっしゃるかもしれません。
では、資産を「増やす」という観点から、保険を他の金融商品と比較してみましょう。

保険は本当に「増やす」商品になりうるか?

結論から言うと、資産形成、つまりお金を「増やす」という目的において、保険の優先順位は高くない、と私は考えています。

理由はシンプルで、先ほど触れた「手数料」の存在です。
貯蓄型保険は、保障と貯蓄がセットになっている分、構造が複雑で、どれくらいの手数料がかかっているのかが見えにくいというデメリットがあります。

「お金を増やすなら、貯蓄と投資は分けて考えるべきです。」

これは、私がセミナーでいつもお伝えしている言葉です。
保障は保険で、資産形成はより効率的な別の金融商品で行う。
この「役割分担」こそが、合理的な資産形成の第一歩なのです。

保険 vs 投資信託:コスト・リターン・流動性で比較

具体的に、資産形成の代表的な商品である「投資信託」と保険を比較してみましょう。

比較項目貯蓄型保険投資信託(インデックスファンドなど)
コスト(手数料)割高で不透明な場合が多い低コストで透明性が高い
期待リターン低い(予定利率に縛られる)市場成長に応じて期待できる
流動性(換金しやすさ)低い(早期解約で元本割れリスク)高い(いつでも解約可能)
税制優遇生命保険料控除(限定的)新NISA・iDeCo(運用益非課税)

このように比較すると、資産を「増やす」という土俵においては、投資信託に軍配が上がることがお分かりいただけるかと思います。

保険商品の利回りの実態と注意点

貯蓄型保険を検討する際、「予定利率」という言葉を耳にすることがあります。
これは保険会社が契約者に対して約束する運用利回りですが、ここにも注意が必要です。

この予定利率から、保険会社の経費(付加保険料)が差し引かれたものが、実質的な契約者のリターンとなります。
そのため、予定利率の高さが、そのまま貯蓄の増えやすさに直結するわけではないのです。

保険が有効なケース・有効でないケース

では、保険は全く必要ないのでしょうか?
いいえ、決してそんなことはありません。
大切なのは、自分の目的と状況に合わせて「使い分ける」ことです。

保障重視で保険を選ぶべき人とは

以下のような方は、保険の「保障」機能を積極的に活用すべきです。

  • 扶養家族がいて、自分に万が一のことがあった場合に経済的に困窮させてしまう可能性がある方
  • 自営業者やフリーランスで、会社の社会保険のような手厚い保障がない方
  • 貯蓄がまだ少なく、急な病気やケガによる大きな支出に対応できない若年層の方

これらのケースでは、割安な保険料で大きな保障を確保できる「掛け捨て」の保障型保険が非常に有効な選択肢となります。

資産形成目的で保険を活用するべきでない人とは

一方で、以下のような考えで保険を検討している方は、一度立ち止まることをお勧めします。

  • 「投資は怖いから、元本保証の保険で手堅く増やしたい」と考えている方
  • 新NISAやiDeCoといった、より有利な制度を活用せずに、貯蓄型保険を検討している方
  • 「節税になるから」という理由だけで、保険への加入を考えている方

特に、新NISAやiDeCoは、国が用意してくれた非常に強力な資産形成のツールです。
この恩恵を最大限に活用することが、資産を効率的に増やすための王道と言えるでしょう。

ライフステージ別:保険と投資のバランス最適解

保険と投資の最適なバランスは、ライフステージによって変化します。

  • 20〜30代(独身・DINKS):貯蓄が少ないため、急な入院などに備える医療保険をミニマムで。資産形成はNISAやiDeCoを最優先に。
  • 30〜40代(子育て世代):世帯主に万が一があった場合の生活費を賄うため、掛け捨ての死亡保険の必要性が高まります。教育費の準備と並行して、NISAでの積立投資を継続。
  • 50代以降(子育て終了後):子供の独立に伴い、大きな死亡保障は不要になるケースが多いです。保険を見直し、老後資金の準備として投資の比率を高めることを検討します。

最新の保険トレンドと制度改正の影響

保険商品も時代と共に変化しています。
最近よく耳にする商品や、制度との関係性についても見ていきましょう。

外貨建て保険や変額保険の仕組みとリスク

「円のままでは不安」「高い利回りが期待できる」といったセールストークで、外貨建て保険や変額保険を勧められた経験はありませんか?

これらの商品は、確かに高いリターンを得られる可能性がありますが、その裏には相応のリスクが存在します。
外貨建て保険は、常に「為替リスク」を伴います。
契約時より円高が進むと、外貨ベースで増えていても、円に換算すると元本割れを起こす可能性があります。

変額保険は、運用実績によって将来受け取る保険金が変動する投資性の高い商品です。
ハイリスク・ハイリターンであり、資産形成の知識が豊富な上級者向けの商品だと私は考えています。

新NISA・iDeCoと保険商品の相性

繰り返しになりますが、資産形成を考える上で、新NISAとiDeCoの活用は必須です。
運用益が非課税になるというメリットは、他のどの金融商品にもない圧倒的な強みです。

保障は保険、資産形成はNISA・iDeCo。
このシンプルな役割分担を徹底することが、情報格差に惑わされず、賢く資産を築くための最適解です。

税制優遇の観点から見た保険の立ち位置

生命保険料控除は、支払った保険料に応じて所得から一定額が控除される仕組みで、所得税や住民税が軽減されます。
しかし、その節税効果は、NISAやiDeCoの非課税メリットと比較すると限定的です。

「節税」という言葉だけに惹かれて、本来の目的を見失わないように注意が必要です。

保険を「道具」として使いこなすために

さて、ここまで様々な角度から保険について解説してきました。
最後に、保険という「道具」を真に使いこなすための考え方をお伝えします。

「目的別に商品を選ぶ」という発想

保険も、投資信託も、すべてはあなたの目的を達成するための「道具」に過ぎません。

  • 目的:万が一の死亡に備えたい → 道具:掛け捨ての死亡保険
  • 目的:病気やケガの治療費に備えたい → 道具:医療保険
  • 目的:老後資金や教育資金を準備したい → 道具:新NISAやiDeCoを活用した投資信託

このように、まず「目的」を明確にし、その目的を達成するために最適な「道具」は何か?という順番で考えることが、金融商品選びで失敗しないための鉄則です。

保障の重なり・漏れチェックリスト

一度、ご自身が加入している保険について、以下の点を確認してみてください。

  • [ ] 誰のために、何のために、その保険に入っていますか?
  • [ ] 公的保障でカバーされる範囲を理解していますか?
  • [ ] 保障額は、今のライフステージに対して過不足ありませんか?
  • [ ] 同じような保障内容の保険に、複数加入していませんか?
  • [ ] 貯蓄目的で加入している保険はありませんか?その場合、NISAなどと比較しましたか?

このチェックリストを通じて、ご自身の保険の現状を客観的に見つめ直すきっかけになれば幸いです。

黒川流:保険と投資をどう組み合わせるか?

私がお客様にご提案する、基本的な組み合わせは非常にシンプルです。

  1. 土台を固める:まずは公的保障の内容をしっかり理解する。
  2. 守りを固める:公的保障で足りない部分だけを、割安な「掛け捨て保険」で補う(死亡保障、医療保障など)。
  3. 攻めて増やす:余剰資金は、新NISAとiDeCoの非課税枠をフル活用して、低コストの投資信託で長期・積立・分散投資を徹底する。

この三本柱で、「貯める・増やす・守る」のバランスの取れた資産形成を目指します。

まとめ

保険は、投資か、保障か。
長い議論にお付き合いいただき、ありがとうございました。

この記事を通じて、私がお伝えしたかった結論は、以下の通りです。

  • 保険は投資でも保障でもなく、「あなたの目的を達成するための道具」である。
  • 資産を「増やす」ならNISAやiDeCo、「守る」なら掛け捨て保険、というように役割を分けることが合理的。
  • 公的保障という最強のセーフティネットを理解し、不足分だけを民間の保険で補う。

金融商品は複雑で、難しい専門用語もたくさん出てきます。
しかし、その本質は、あなたの人生をより豊かにするためのツールに他なりません。

この記事が、あなたが情報格差を乗り越え、ご自身のライフプランに合った納得の選択をするための一助となることを、心から願っています。

参考文献

高額療養費制度を利用される皆さまへ (mhlw.go.jp)

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